第13回目の今回は、光学的な視点から、集光をする「レンズ」について解説します。
レンズの仕様・性能を表す焦点距離、F値、MTFという数値について概要を紹介します。

焦点距離とは?

一般的なカメラは、図1の通りピンホールモデルとして扱うことができます。入射光はレンズの焦点を通り、撮像素子で受光します。撮像素子から焦点までの距離が焦点距離です。

図1 ピンホールモデルの焦点距離と撮像位置の関係

図1 ピンホールモデルの焦点距離と撮像位置の関係

図1の焦点距離が長い場合と比較して、図2のように焦点距離が短くなると広い範囲の光を受光することができます。つまり、遠くをズームインして撮影したい場合は、焦点距離の長いレンズを、広い範囲をズームアウトして撮りたい場合は、短焦点レンズを選ぶ必要があります。

図2 短焦点レンズ

図2 短焦点レンズ

F値とは?

F値(F-number)は、一眼レフなどのレンズ交換式カメラのレンズにはほぼ必ず記載されている値で、レンズの明るさを表します。F値はレンズの焦点距離を有効口径で割った値で、値が小さいほど明るいレンズとなります。

F値の2乗に反比例して入射光量は少なくなります。具体的には、F値が2のレンズ「1/(2²)=1/4」に比べ、F値が2.8のレンズ「1/(2.8²)≒1/8」は入射光量が半分になります。暗い環境下でなるべくノイズの少ない画像を撮りたい場合は、F値が小さく明るいレンズが適切です。

また、F値の小さい明るいレンズの方が、被写界深度(ピントの合う奥行き幅)が浅く、背景のぼけた画像になります。背景をぼかしたい場合はF値の小さいレンズ、ぼかしたくない場合はF値の大きいレンズ(または絞りを調整)が良いでしょう。

MTFとは?

MTF(Modulation Transfer Function)は、レンズの解像度の性能を評価するための指標です。被写体の持つコントラストをどの程度忠実に再現できるかを、空間周波数特性として数値化したものです。

MTFの測定には、図3のように白と黒が周期的にsinカーブ状に変化する正弦波チャートを用います。被写体のテクスチャ(チャートの白黒パターン)は、レンズを通して撮像するとコントラストが低下してしまいます。このコントラストの低下の度合いを表す数値がMTFです。空間周波数が低い(白黒パターンが太い)場合は大きな問題とはなり難いのですが、空間周波数が高い(白黒パターンが細い)場合は、MTFの高いレンズを用いないとコントラストの高い画像は撮れません。テクスチャの細かさによっては、MTFの低いレンズを使うと白黒パターンが完全に潰れてしまい、輝度変化のないグレーとして撮像されてしまいます。

図3 レンズ解像度による撮像画像の差異

図3 レンズ解像度による撮像画像の差異

レンズを選ぶ際は、焦点距離、F値、MTFを確認するようにしましょう。撮影したい視野角、被写体の距離と、認識に必要な画素数から焦点距離を決めましょう。F値は、夜間画像のノイズの少なさをどの程度優先するか、近くの物体のみに焦点を合わせて背景をぼかしたいかどうかなどの点から決めると良いでしょう。ただし、ある距離以上は無限遠までピントが合うため、近距離を撮影対象にしない場合は被写界深度によるボケはあまり気にしなくても構いません。また、細かいテクスチャを撮影したい場合で高解像度の撮像素子を用いる場合は、MTFの高いレンズが適しています。

次回はハードウェアについての4回目、「GPGPU(General purpose computing on graphics processing units)」について説明します!