第39回目の今回は、絵画の下に隠された下書きを観ることができる技術を紹介します。
この技術を使うと、図1のように油絵の下に隠された下書きや、古代文書の文字の読み取りに利用することができます。これらは、実際に表面を削ることができないものなので、物を壊さずして内側の層を観る技術が必要になります。
図1 応用例
概要
この技術は、図2のとおり表面の油絵の層と、その下の層の絵を分離し復元することが目的です。絵を復元するために、プロジェクタで格子状のパターンを複数照射し、撮像した画像をコンピュータで処理することにより、表面の層(油絵)と下の層(下書き)を分離します。
図2 概要
ここで、カメラで撮像した画像は、表面の層にある係数を掛けたものと、下の層にある係数を掛けたものを足し合わせたもので表されると定式化します。2つの異なる格子パターンを照射して、2枚の画像を撮影した場合、2つの式が得られることになります(図3)。
未知の変数は、表面の層(Top layer)と下の層(Inner layer)の2つなので、これを連立方程式として解くと、表面の層の画像と下の層の画像を分離できるというわけです(図4)。
図3 定式化の概要
図4
結果
この技術を使うと、図5のように油絵の下の下書きやSignature、重なった紙の内側の文字の読み取りや、壁画の内側の層の復元ができます。このような技術があれば、デザイン的に見えないようにしておきたい2次元バーコードなどを隠しておくことや、偽造することがより難しい紙幣やチケットなどを作ることができるかもしれません。詳しく知りたい方は、参考文献を読んで見てください。
図5 結果
次回は、人の目では見ることのできない赤外線を可視化する技術を紹介します!
参考文献
[1] T. Tanaka, Y. Mukaigawa, H. Kubo, Y. Matsushita, Y. Yagi, “Recovering Inner Slices of Translucent Objects by Multi-frequency Illumination”, Proc. CVPR2015, June 2015.