第40回目の今回は、人の目では見ることのできない赤外線を可視化する技術を紹介します。
人間が見ることができるのは、波長が0.38μmから0.78μmの間の極々一部の電磁波(光)のみで、可視光と呼ばれています。赤外線は、可視光よりも波長の長い電磁波です(図1)。そして赤外線よりもさらに波長の長い電磁波が、携帯電話等の通信やテレビに使用されています。
赤外線は、近赤外線、中赤外線、遠赤外線に大別することができます。同じ赤外線でも特徴が大きく異なるので、1つずつ紹介します。

図1 赤外線とは

図1 赤外線とは

近赤外線カメラ

近赤外線は、リモコンで使用されている光です。人間の目には見えません。
近赤外線を照射し、近赤外線の波長域を露光できるカメラで撮影すれば、人間の目には暗闇しか見えない環境下で、明るい映像を撮影することができます。これが暗視カメラです。
近年では、夜間の自動車の運転を補助するナイトビジョンシステムでも採用されています(動画1)。近赤外線は人間の目には見えないので、対向車や歩行者が周囲にいる場合でもハイビームで照射することができ、遠方の映像をディスプレイ上で目視で確認することができます。さらにコンピュータビジョン技術を用いれば、その映像から歩行者を自動で検出することができます。


動画1 自動車の夜間運転支援システム (ナイトビジョン)

第1世代目のMicrosoft Kinectセンサでは、近赤外線でドットパターンを照射して、そのドットを近赤外線カメラで計測し、三角測量の原理で3次元データを計測していました(動画2)。第2世代目のKinectセンサは、ToF(Time of Flight)に変更されましたが、パルス変調された近赤外線が用いられており、近赤外線を照射し反射して戻ってくるまでの時間をもとに、3次元データを計測します。


動画2 Kinect第1世代の近赤外投稿パターン

また、静脈認証でも近赤外線が用いられています。近赤外線を人体に照射すると、近赤外線は人体の表面部を少し透過したのち、反射されます。その際、光が血管に当たると近赤外線は赤血球に吸収され、減衰します(図2)。この反射されてきた近赤外線を撮像することで、体の表面近くに静脈が存在する領域が暗く、静脈の通っていない領域が明るい画像を得ることができます。この画像を処理して、静脈のパターンから個人を特定するのが静脈認証技術です。

図2 近赤外線を用いた静脈の撮像原理の概要

図2 近赤外線を用いた静脈の撮像原理の概要

中赤外線カメラ

すべての分子は、ある特定の周波数の電磁波(光)を吸収する性質があります。この性質を調べる技術に、赤外分光法(IR法)というものがあります。
中赤外線を照射すると分子が光のエネルギーを吸収するため、透過(または反射)した赤外線は照射したときよりも物質に吸収された分だけ減衰します。波長ごとの吸収されるエネルギーは分子の化学構造によって異なるため、波長(または周波数)を横軸、吸光度を縦軸にとる赤外吸収スペクトルは分子ごとに異なります。つまり、透過(または反射)した赤外線の赤外吸収スペクトルを調べることで、物質を特定することができます。

遠赤外線カメラ

物体は、温度が高いほど強い遠赤外線を発します。そのため、遠赤外線を電気信号に変換することができれば、物体に触れずにその温度を計測することができます。
遠赤外線を電気信号に変換できる素子を2次元的に配置して得られるのが、熱画像(サーモグラフィ)です。遠赤外線カメラで撮影した熱画像を用いると、人間や火などの発熱源を容易に検出できます。さらにその温度を計測することができるため、空港で旅客が病気で発熱していないかを監視したり、機械の故障により発熱した箇所を自動で検出したりすることができます。

近赤外線を照射して近赤外線カメラで撮影することで、静脈のように見えなかったものが見えるようになることがあるかもしれません。機会があれば是非色々と撮影してみてください。
また、遠赤外線カメラは以前は高価なものでしたが、近年では低価格化が進んでいます。普通のカメラよりはまだ高価ではありますが、人や火などの発熱源を検出するシステムを開発する際には、センサの候補に遠赤外線カメラも入れてみてください。

次回は、「画像の領域分割(Segmentation)」について紹介します!